加古川の南にある喫茶店のタテイト珈琲店。営業時間は昼13時から夜22時まで。メニューは主にコーヒーとデザートのみという、ちょっと変わったお店です。
実はこちらの店主の田中雅経さんは大学時代からの知り合いです。
何度も通っていますが、詳しくは聞いたことのなかった裏話をいろいろと聞いてきました。
僕が4回生のときの1回生が彼でした。インタビューはフランクな口調でしたが、ちょっとかしこまってお届けします。
取材日:2020年3月19日 聞き手:かこがわノート編集部まさみ(佐藤正巳)
タテイト珈琲店ができるまで
――なぜ喫茶店を開いたのか教えてください。
「『喫茶店をやりたかった』より『一人でやりたかった』。サラリーマン時代、性格的に0か100かみたいなところがあって、例えば企画に100の想いを込めても通らない。
でもだからって自分をなくしちゃったら、自分のいる意味はない。
それがしんどくなってきて。
そんなときに通っていたのが夜10時までやってるまるも珈琲店だったんです」
まるも珈琲店は神戸市灘区で25年以上店を営んでいます。
http://marumo-cafe.com/「一人でやってみたいと思ったのがたまたま喫茶店だった。ストレートに『これが僕です』って出して、認められなかったら終わり。認められたら根付いていくかな、と。
一個箱を作って、思う存分自分を出せることって考えたとき、喫茶店がそれに一番近いと思った」
「他の人間の色を入れたくない」
「一人でやるためにやらないことをまず決めました。ランチ、モーニング、お酒」
――たしかに夜まで営業している割にお酒を出してないですね。
「ちゃんとお客さんと喋りたいっていうのがあって。お酒が入ると、ちょっと、ね。
あとはお酒を出さないことで、女性の方でも一人で通えるようなお店になってるかなと」
――たとえば昼13時からの営業時間を早くしてみようとかは考えないんですか?
「ないですね。体力的にも厳しいし、夜をやりたいから。
夜の方が話が面白い。
ランチやモーニングは調理のためにどうしても従業員を入れないといけないからやらないんです。
他の人間の色をこの店に入れたくない」
「この店にあるものすべてを語れないと意味がない」
――好きなものがいっぱいあるから、他の人間の色を入れたくないと思うのかもしれませんね。
「例えば音楽なら僕は好きな音楽を流して、それで会話したい。『この店はこんな曲がかかってるんか』と話が始まることもあります。
この店の中にあるものすべてを語れないと意味がないと思ってます。
ある意味トラップを仕掛けているところもあります。
スピーカーならこういうのがあれば話のきっかけになる」
――お客さんの好きなもののことも言ってほしいと思いますか?
「何の話でも興味あるし、聞きたいですね。僕の後ろにもお客さんの後ろにも世界が広がってる。
初めてのお客さんが本を読んでいたら、お会計のときに何の本か聞いたりもします」
余白珈琲の豆について
タテイト珈琲店では神戸塩屋でコーヒー豆を焼く、余白珈琲の豆を使っています。
――余白珈琲の豆を使うようになった経緯を教えてください。
「たまたまの出会いです。でも出会っただけで頼むってことはないですよね。
彼とはコーヒーに対する考え方が似てる。ほぼ同じと思ってるんです。
普段遣いのコーヒー、コーヒーだけを味わうんじゃなく、コーヒーと何か。余白珈琲ならコーヒーと生活。
タテイト珈琲店ならコーヒーと本とか。僕とお客さんを結びつける接着剤みたいな。
あとは一緒に歩んでいってくれる人とやりたかったっていうのもあります。30半ばで店を出してやっていく上で、長く一緒にやっていける若い人にお願いしたかったんです」
「そもそも自分で焼かないのかって思われるかもしれませんけど、余白珈琲と出会えたからもういいか、と。僕のやりたいことはこの人がやってるから別に僕が焼かなくてもええやん。
タテイトのオリジナルブレンドを作ってもらうとき、彼が『ツネさんの好きな曲1つと好きなポストカード1枚持ってきてください。それを見て僕は焼きます』って」
「それを面白がれるかどうかはその人の価値観にもよるんでしょうけど、僕は面白いなって思った」
――それで1回で決まったんですか?
「僕らの場合は1発で決めました。2回やっちゃったら、うそになるじゃないですか。
その1回で気に入ってます。
彼を信頼しきってるから、これがタテイト珈琲店と思ったんやね、と」
深煎りの理由
――コーヒーのかるめ・ふかめ・タテイトの3種類の違いを教えてください。
「かるめとふかめはブラジルを主体としたブレンドの同じ豆で焼き具合が違います。
タテイトはベトナム主体のオリジナルブレンドです。
ふつうと濃い口は豆の量が違います」
「うちのコーヒーってかるめって言っても、他の店で出したら深煎りに近くなるんですよ、実は。
ある意味、深煎り専門店なんですね。
それも理由があって。
お店には一人で来る人が多くて、本を読んだり僕と喋ったりして長い時間楽しまれるお客さまが多い。そうするとコーヒーって冷めちゃうんですね。
酸味が強いコーヒーだと酸味が勝っちゃって冷めると飲みにくくなるんですよ。
それで冷めても比較的飲みやすいように深煎りをやってます」
Instagramと空気感
タテイト珈琲店のInstagramアカウントには千人を超えるフォロワーがいます。臨時休業やオープンクローズ時間もInstagramで発信しています。
https://www.instagram.com/tateito_coffee/――Instagramはどういうことを意識してやってますか?
「一番僕が店の外に出たときに仕掛けやすかったのがInstagramだった。
コーヒーって深めでも浅めでも写真では全部一緒なんですね。デザートも今はチーズケーキしかない。
例えば季節限定のメニューとかうちはそれがないから、全然違うことをしていかないと目立たない。
何かの味よりも空間を売るような店なので、ちょっとでも空気感が伝わればと思って、それが伝わる方がうちの店らしい。だから写真と文章。
Instagramに書いたことで話が始まることもあります。『こないだのアレさあ』みたいな。その点では実店舗での話題にもなってますね」
「インスタは自分の切り売りみたいなところはあります。人間臭いところを良いってお客さんは言ってくださいますけど。
ただ昔よりは力が抜けました。今は言葉を詩の方に向けたいんです」
詩集
2月に出した詩集『この夜に告ぐ』。オンラインショップで通販もしています。
――最後に詩集についても聞かせてください。
「きっかけはお客さんです。
Instagramを見て『田中くんの文章は横書きじゃなくて、縦書きの活字で読みたい』とおっしゃっていただいて、ほな詩集でも出しましょうか、と。
常連さんにけっこう買っていただいていて、ウチの物販部門では一番人気です」
「最近は詩をライフワークにできるかもしれないと思ってます。
一日中忙しいわけじゃないので、そういうときに詩を書いてると落ち着くんです」
取材を終えて
店内のものにはすべて理由がある、タテイト珈琲店はそんなところだったんだと取材を通して気づかされました。
店主の頭の中を可視化したように、たくさんのモノが店内に並び、お客さんはそれに触れる。共通するところから話を始めて、ときに新しいものに出会う。そんな体験を売っている店なんじゃないかと思いました。
「10年後は10年分自分が歳を取って、お客さんも同じように歳を取るだけ」と笑うのは、今やりたいことを店に出し尽くしているからなのかもしれません。
初めてのお客さんにはいきなり積極的に話しかけたりはしないそうなので、ぜひ怖がらずにカウンターへ。
(文責:佐藤正巳)
※写真内の価格などは取材時点のものです。
店舗名 | タテイト珈琲店 |
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住所 | 兵庫県加古川市加古川町木村712-4 ニシムラビル1階北 (マックスバリュ友沢店隣接)(地図) |
公式サイト | タテイト珈琲店、Instagram |